リア充という特権階級 第二話(ファッションブランドの場合)  

ビッグデータが当たり前になったときの、アパレル業界について想像してみました。

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ミナミは広告代理店で働くキャリアウーマンだ。毎日、タクシー帰りで、土日も家で仕事をする日々だが、世の中にたくさんのCMを送り出してきた。

 

特にファッションブランドのCMを作らせたら右に出るものはいないと言われ、新しいブランドを立ち上げる時には必ず声がかかるようになっていた。

 

トオルは、シンプルで安い服を作ることで売り上げを伸ばしているニュークロの広告担当者で、ニュークロのCMを手掛けているときに知り合った。

 

付き合って1年、一緒に住むようになったにもかかわらず、平日はほとんど話をしない。トオルが作ってくれた夕食を一人で食べる毎日。

 

それでも、ミナミは、休日の朝にトオルに起こされ一緒に朝食を食べる時間が、一番好きな時間だった。

 

トオルは、ニュークロの広告担当者をやめて新しいサービスを立ち上げると言い出した。彼は、ニュークロなどのファストファッションの服を使って、その人にあったコーディネートを提案するサービスを始めるらしい。

 

オンラインスタイリストと名付けられたそのサービスは、トオルの今までのスタイリストやファッションについてのノウハウを使って、ユーザの体系や顔から自動で、その人にあうファッションを提案し、定額が服や靴、アクセサリを届けるというものだった。

 

ユーザは、どれを気に入ったかをオンラインスタイリストにフィードバックすることで、より自分好みの服を手に入れる。ファッションブランドは、そのフィードバックを参考に、次の服をデザインする。

 

何を着るか迷ったときは、オンラインスタイリストがユーザが持っている服と天候から、最適なコーディネートを提案してくれる。着なくなった服も、オンラインスタイリストへ返却すれば、別のユーザのもとへ届けられる。

 

下着も含めてスタイリングしてくれるプランも用意されていて、イニシャル入りの下着が届けられる。ボタンがとれてしまったり、やぶれたりした服は、同じような服との交換も受け付けてくれる。

 

なかなか、人気が出なかったオンラインスタイリストのために、トオルプライベートブランドを立ち上げた。ファッションブランドの服と似た生地を仕入れ、ユーザにあった型紙で服を作るブランドだ。

 

名目上は、ユーザが指定する服の画像をもとに服を作るサービスだったが、実際には、ブランド服と同じデザインの服を作るサービスであった。

 

意匠権の及ばない国で作り、その服をその国のメーカからユーザが直接購入する方式だったため、日本の意匠権では取り締まれない。

 

そもそも服には意匠権が設定されていないことが多く、型紙も独自で、無料公開していたため、取り締まることができなかった。

 

そうして、トオルのブランドはファッションブランドの服からロゴをとっただけの服を売り、オンラインスタイリストは誰もが使うサービスになった。

 

と、同時にミナミには仕事がなくなった。

 

新しいブランドの立ち上げも成功せず、自身が立ち上げたブランドは、どんどん消えていった。

 

そして、オンラインスタイリストが公開した膨大な無料で使える型紙は、ファッションブランドを完全に駆逐した。誰もが、既製服ではなく、自分の体系にあった服を買うようになってしまった。

 

ミナミは、会社をやめ、トオルのために夕食を作る生活を始めた。キャリアウーマンとしての自分の生き方を否定することが最初は辛かったが、今では、自分の時間を自分のために使える生活に満足するようになった。